脂肪腫(リポーマ)と症状・見た目が似ている疾患
脂肪腫は、その発生する部位や大きさによっては、他の疾患と症状や見た目が似ている場合があります。中には、見た目だけでは良性か悪性か判断が難しい腫瘍も存在するため、医師による正確な鑑別が必要です。
皮膚のしこりやふくらみに気付いた際には、ご自身で判断せず、早めに受診されることをおすすめします。
脂肪腫と似た症状を起こしやすい疾患
- ガングリオン
- 粉瘤(アテローム)
- 滑液包炎(かつえきほうえん)
- 神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)
- 脂肪肉腫
脂肪腫は、軟部組織(臓器や骨以外)にできる良性の腫瘍性病変で、その中身は脂肪細胞が被膜に包まれた状態になっています。
脂肪腫と似た症状を起こしやすい疾患には、非腫瘍性・腫瘍性の違いはあるものの、「脂肪肉腫」以外はすべて良性です。悪性の「脂肪肉腫」は中年以降に発生することが多く、初期には脂肪腫と同様に痛みなどの自覚症状がなく、症状や見た目だけで見分けることはできません。疑わしい場合は速やかに病理組織検査を行う必要があります。
以下に、脂肪腫と見た目が似ている疾患の特徴や相違点について解説します。
ガングリオンの特徴と脂肪腫との相違点
発生しやすい部位
ガングリオンは、関節を包む関節包や腱を包む腱鞘の近くに発生しやすく、手関節や手指などによく見られます。
一方、脂肪腫は首や背中、臀部(お尻)といった体の中心に近い部位に多く発生します。手足にできる場合でも、上腕や大腿部などの大きな筋肉がある部分に発生しやすく、末梢に行くほど発生しにくい傾向があります。
感触・硬さ
ガングリオンは比較的硬い感触がありますが、脂肪腫はやわらかい感触であることが多いです。
大きさ・内容物
ガングリオンは数ミリ程度からピンポン玉くらいまでの大きさで、内部にはゼリー状の液体が貯留しています。
脂肪腫は数ミリ程度の小さなものから、10センチを超えるものまで様々で、やわらかい感触のため、小さい間は気づかれにくく、ゆっくりと大きくなってから発見されることが多いです。脂肪腫の内容物は、薄い膜に包まれた脂肪です。
症状・治療法
ガングリオンと脂肪腫はどちらも良性で、痛みなどの症状を起こすことはほとんどありません。そのため、見た目上の問題や日常生活に支障がない場合、無理に治療をする必要はありません。
ガングリオンは、内容物がゼリー状の液体であるため、注射器による吸引で治療することも可能ですが、状態によっては手術が必要になることもあります。
一方、脂肪腫は内容物が脂肪のため、注射器で吸引することはできず、現在のところ手術による摘出が唯一の治療法です。
粉瘤(アテローム)の特徴と脂肪腫との相違点
脂肪腫は、脂肪細胞が薄い膜に包まれた良性の腫瘍です。一方、粉瘤は皮下に発生した袋状の組織に、角質(垢)や皮脂などの老廃物がたまってできたものです。
どちらも自然に治ることはなく、徐々に大きくなる傾向があります。皮膚が盛り上がる点は似ていますが、その成り立ちや内容物はまったく異なります。
発生しやすい部位
粉瘤は皮膚の浅い層にできやすいため、しこり全体が皮膚を通して青黒く透けて見えることが多く、皮膚の開口部が黒い点(酸化した皮脂)として見えることもあります。
これに対して脂肪腫は皮膚の深い層にできやすく、皮膚の色の変化はなく、単に皮膚が盛り上がって見えることが多いです。
感触・硬さ
粉瘤は触れると硬く、弾力があり、しこりのような感触です。一方、脂肪腫はゴムのように柔らかい感触が特徴です。
放置した場合の症状
どちらも放置すると徐々にサイズが大きくなる傾向がありますが、粉瘤は炎症を起こしやすく、化膿すると痛みや赤い腫れ、熱感を伴うことがあります。また、粉瘤は開口部から内容物が出ると独特の臭いを発することがあります。
一般的な脂肪腫は炎症を起こすことはほとんどありませんが、例外として血管脂肪腫の場合は痛みを伴うことがあります。脂肪腫は粉瘤のような独特な臭いを発することはありません。
治療
脂肪腫と粉瘤のどちらも自然治癒は期待できず、根治には手術が必要です。脂肪腫の手術では、腫瘍直上の皮膚を直線的に切開し、脂肪を包んでいる被膜ごとすべて摘出します。
粉瘤の手術には「くり抜き法」と「切開法」があり、再発を防ぐために老廃物がたまる袋状の組織をきれいに取り除く必要があります。
滑液包炎(かつえきほうえん)の特徴と脂肪腫との相違点
発生しやすい部位
滑液包とは、関節と骨の間にある小さな袋状の組織で、中には少量の液体(滑液)が入っており、関節が滑らかに動くためのクッションの役割を果たしています。滑液包炎は、運動などで特定の部位を繰り返し使用したり、ぶつけたりすることで滑液包に炎症が生じて起こります。
滑液包炎では余分な体液がたまり、コブ状の腫れを伴います。肩関節に頻度が高く、ひじ(曲げたところの先端)、ひざ(お皿の直上やお皿の少し下)、足首(足首の外側)などにもよく見られます。
脂肪腫は、首や背中、臀部など、関節以外の場所にも発生することが特徴です。
感触・硬さ
いずれもやわらかく弾力がありますが、滑液包炎の場合は圧迫すると痛みを生じます。
内容物
脂肪腫の内容物は脂肪で、時間をかけてゆっくりと大きくなるため、気付きにくいことが多く、1センチ程度になってから発見されるケースが一般的です。
滑液包炎のコブの正体は、出血を伴った滑液の貯留であり、超音波(エコー)検査で確認できます。さらに、注射器で液体を採取して炎症の状態を調べることも可能です。
治療
滑液包炎の治療では、炎症を抑えて痛みや腫れを緩和させることが最優先されます。炎症の原因に発症部位の酷使や生活習慣が関係している場合には、安静や生活習慣の見直しが必要です。慢性化や悪化している場合には、外科的な治療も考慮されます。
神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)の特徴と脂肪腫との相違点
発生しやすい部位
神経鞘腫は、末梢神経から発生する良性の腫瘍で、皮下組織や筋肉に発症しやすい傾向があります。皮膚の浅い部分に発症すると、コブのようなふくらみが見られることがあり、深い部分にできると痛みやしびれなどの神経症状を伴うことがあります。
三叉神経鞘腫では、顔面のしびれや知覚低下が生じることもあります。
一方、脂肪腫は主に皮下に発生し、皮膚表面から触れるとゴムのようなやわらかい感触を持ちます。脂肪腫は通常、痛みやしびれなどの症状を伴うことはありません。
大きさ
いずれの腫瘍も、薄い袋状の膜に包まれた良性の腫瘍であり、多くはゆっくりと大きくなります。しかし、何年間も大きさが変わらないこともあります。
まれに、短期間で大きさが変化する場合もあり、その際は注意が必要です。
治療
どちらの腫瘍も、症状がなく、見た目や日常生活に支障がない場合は、治療を急ぐ必要はありません。ただし、神経鞘腫や脂肪腫のいずれにおいても、サイズが短期間で大きくなる場合には、早急な手術が必要となることがあるため、なるべく早く適切な治療を受けることが重要です。
脂肪腫が疑われたら、放置せずに一度ご相談ください
脂肪腫は良性腫瘍であり、放っておいても悪性化することはほとんどありません。ただし、脂肪腫と症状や見た目がよく似た脂肪肉腫という悪性腫瘍が疑われることがまれにあるため、注意が必要です。
脂肪肉腫かどうかは、大きさや発生部位の深さ、硬さ、周辺組織への癒着の状態などから、ある程度判断できる場合もあります。当院では、超音波(エコー)検査を実施しており、必要に応じて他院でCT検査やMRI検査などの画像検査を受けていただくことで、より正確な診断につなげています。
また、脂肪腫の大きさや発生部位によっては、手術に全身麻酔が必要と判断される場合や、悪性を疑う場合には、連携している大学病院などをご紹介し、スムーズに治療を受けられる体制を整えています。脂肪腫が疑われた場合は、放置せずに当院まで一度ご相談ください。